私たちは音響エレクトロニクスに関する研究を中心に,耳に聞こえるオーディオ周波数領域から,耳には聞こえない超音波の周波数領域まで,音波(音)や音響に関する現象を広範囲に調べていますい.さらに,音を単に聞くためだけではなく,情報通信的,さらにはエネルギー的に利用し,我々の生活の品質(QOL, Quality of life)向上を目指します
特に,非線形音響学(Nonlinear Acoustics)が重要な研究課題で,今まで多くの成果を報告してきました. 自然界において,非線形性に起因した興味ある現象がいままでに多く見つけられてきました.ソリトンやカオスはその代表的な現象でしょう.音波についても例外ではありません.
近年,音波の非線形現象,例えば波形歪み,音響流,音響放射圧,音響ソリトン, ソノルミネッセンス(音ルミネッセンス),ソノケミストリーなどの現象が注目されてきています. また,同時にこれらの現象を利用した応用研究も活発に行われています.
例えば,2つの異なる周波数を送波した際に発生する差音はパラメトリックアレイとして知られ, 指向性の鋭さに特長があり,海洋音響での新しいソナー技術として利用されています. 高調波を利用したハーモニックイメージングは,超音波医学での次世代診断映像法として知られてきています.音波浮揚は非接触マニピュレータや高性能搬送システムとして応用されています.
これらの目的のため,音波・超音波伝搬や音響現象の理論の構築を行います.さらに,それらを応用した計測方法などの提案,計算機シミュレーションやモデル実験による提案法の評価,また実際にシステム開発を行います.
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吸収の少ない低周波超音波を用いた,広範囲の超音波画像の取得を目指します.そのためにパラメトリック低周波音源とパルス圧縮技術の応用を試みています.
(左) 高周波超音波による超音波画像.コイン表面からのエコーの強弱で画像化
(右) 低周波超音波による超音波画像.水中に設置されたアルミニウムブロックが可視化されている.
通常の超音波イメージングは対象物体と探触子の接触が必要ですが,必ずしもそのような状況が許されるわけではありません.そのために,時間反転波技術を用いて,単一素子超音波振動子によるイメージング技術の開発を行っています.
(左) 単一素子音源によるタTR集束のシミュレーション.カウンタの値が800のときに右側壁面の中央に音波が集束し,時間的及び空間的に音波が集束することがわかる
(右) TR技術を用いた金属板の非接触超音波画像.中央に欠損を有する金属板の振動を可視化.TRを用いることで欠損部分が可視化されている
通常の音波による厚み測定の限界は波長で決まります.本研究では波長に比べ十分薄い薄膜の厚み測定について,透過・反射を用いた方法の検討を行っています.
一般的に音響強度の測定にはハイドロホンや放射圧天秤が用いられます.本研究では音響放射圧による水面の形状変化から,超音波振動子からの音響出力パワーの測定を検討します.また,放射圧と同時に発生する音響流についての検討も行っています.
(左) 集束超音波による水面形状変化.集束超音波による放射圧で噴水が形成されている.動画はこちら (50MB)
(右) インクを使った音響流の可視化.音源が左側に設置されている
音響放射圧・音響流による音場中の物体の運動はこちら (75MB)
パラメトリックスピーカなどに用いられる超音波は高振幅である必要があります.その音圧は空中であればマイクロホンで計測可能ですが,耳の中の音圧とは必ずしも一致しないため,安全な音圧かどうか判断できません.そのため,ヒトの頭部モデルを用いて,鼓膜位置の音圧を推定する研究を行っています.
通常,到来音波の信号振幅を増幅させるに電気的な増幅器が用いられます.しかしながら,特殊環境において,必ずしも電源が確保できるわけではありません.そこで,電源を用いた音波増幅用音響デバイスとして音響ホーンの設計を行っています.音声帯域においてなるべく小型の音響ホーンを目指します.
(左) 設計された折り返しホーン
(右) 3Dプリンタによる試作
音波は波であるため,拡がりながら空間を伝わる性質があります.そのため,特定の場所へ音楽やアナウンスを届けることは難しいです.この問題を克服するために超音波を用いた超指向性音響システムである.パラメトリックスピーカの開発を行ってきました.このパラメトリックスピーカが作る音場の音像について検討を行っています.
(左) パラメトリックスピーカ用超音波放射器.直径1cm程度の超音波素子(超音波センサ)を円形に並べている
(右) 通常のスピーカとパラメトリックスピーカの音場の比較.周波数は1kHz
音波伝搬や音場を正確に予測するための音波伝搬シミュレーション法の研究を行っています.特に音響流や音響放射圧,またパラメトリックスピーカを解析するために必要となる非線形音波伝搬についての検討を行っています.
(上) 通常のスピーカから放射された2kHzの音波伝搬.音波が拡がってしまうため,音源から0.5m程度離れると振幅が大きく減衰する
(下左) パラメトリックスピーカで生成された2kHzの音波生成.音源から離れても音波の拡がりが小さく,また振幅を減衰しない
(下右) ビーム長抑制型パラメトリックスピーカで生成された2kHzの音波生成.パラメトリックスピーカの特徴を維持,かつ音波の到達距離を制御している(2.5m程度).また,ビーム幅がより狭くなっていることもわかる